? ?香川大学 創造工学部
教授 寺尾 京平
機械工学、マイクロナノ工学、マイクロ流体工学
2024/03/06掲載
個人ホームページ : https://bntech.org/bnt/
研究内容の要点(概要)
生命の基本単位である細胞は、さらに小さく見るとDNAやたんぱく質などの生体分子から構成されています。一方で、細胞が集まることで臓器が形成され、全体として私たちの体が成り立っています。生命のしくみや病気の本質を理解するには、臓器?細胞?分子といった異なるスケールの情報を結びつけて解析することが重要です。
しかし、細胞より小さなスケールでは、通常の生化学的手法によって個々の細胞や分子の特徴、特に「どこにあったか」という空間情報が失われてしまうことがあります。そこで本研究では、臓器から細胞、細胞から分子という階層構造の各段階を“機械加工”のように自在に扱う「生体機械加工」という新しいコンセプトのもと、機械工学の視点から新たな技術開発に取り組んでいます。
一つは「変形加工」です。がん細胞を物理的に変形させ、その反応や回復のしかたから性質を調べます。特に、血液中を流れるがん細胞が毛細血管のような狭い通路をどのように通過するのかに注目し、半導体の加工技術を応用して「細胞パチンコデバイス」という微細構造を開発しました。これにより、がん細胞の変形と回復の様子を詳しく観察でき、がんの転移メカニズム解明につながると期待されます。
もう一つは「分解加工」です。臓器を切断して細胞単位で解析する際、従来は空間情報が失われがちでした。そこで、半導体微細加工技術を活用して「ブレードアレイデバイス」という微細な刃の集合体を開発し、臓器を空間的に分割?解析する技術を開発中です。これにより、どの場所にどのような細胞が存在していたかを把握し、がんの診断や病態解明への貢献を目指しています。
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| 細胞パチンコデバイスによる細胞変形回復の観察例 | 細胞パチンコデバイスによる細胞変形回復の観察例 | 臓器を一括切断するシリコンブレードアレイデバイス |

本学が有する半導体微細加工設備の例
研究を始めたきっかけ、魅力
幼い頃から常に「海」をそばに感じる日本海沿いの漁村で潮風と波の音を枕に高校までを過ごした後、大学に進学しました。その頃の自分はというと、夢の他には何も持たないハングリーな学生でした。
しかし、その夢の中には漠然としていましたが、海に関わる仕事がしたいという気持ちもありました。大学の講義で専門的な知識を増やしていくうちに、ものづくりへの興味が加速していったことは今でも明確に覚えています。やがて海を豊かにする技術開発に取り組みたいと希望するようになり、まさに一本の線から始まる様々な構造物を設計する日々を過ごして今日に至ります。
今後進めたい研究
生体機械加工のコンセプトでやりたいことは多くありますが、紹介した内容にまずは取り組みたいと思っています。その過程で、開発してきた技術を発展させ、尖らせて最先端を目指すような方向と共に、よい技術シーズが得られた際には、社会から必要とされるものとなるように実用化に向けて取り組みたいと考えています
メッセージ
私たちの研究室では、機械工学の視点からこれまでにないデバイスを開発し、医療?生命科学の発展に貢献することを目指しています。学部生?大学院生ともに受け入れており、詳しくは研究室のWebサイトをご覧ください。自ら学び、挑戦し、まだ見ぬ道を切り拓いていこうという意欲ある学生を歓迎します。
趣味
- 散歩?ジョギング?サイクリング:季節の移り変わりや風景を楽しみながら、近場で気軽に体を動かしています。よく訪れるのは、サンポート周辺、香東川、塩江、屋島、庵治など。自然や街並みの変化が豊かで、飽きずに楽しめます。
- 美術鑑賞:シュルレアリスム以降の現代美術に興味があり、国内外の美術館を少しずつ巡っています。展示作品だけでなく、美術館そのものの建築や空間も魅力の一つで、訪れるたびに新たな発見があります。
関連する事業採用実績?受賞歴?特許 等
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- ??? 科研費 国際共同研究加速基金(国際共同研究強化) 【研究代表者】、シングルセル空間画分解析に向けたマイクロ流体前処理技術の開発、2017~2019年度
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- ??? JST 戦略的創造研究推進事業さきがけ【研究代表者】、シングルセル分解計測へ向けた細胞空間分画技術の創出、2014~2017年度
- ??? 文部科学大臣表彰若手科学者賞受賞、「マイクロナノデバイスによる単一細胞単一分子解析の研究」、2018年度


