NEXT?INNOVATION
― 香川大学発研究シーズ活用レポート vol.18?

余ったうどんから、紙を作る

メイン写真案2(700).png

プロフ案2(700).png

最初に微生物紙を作ったときは予想以上のスペックに驚いた

 私の研究室では、微生物の基礎的な研究を土台にして、応用へと繋げる取り組みを行っています。最終的な目標は、微生物を使って物質生産をすること。微生物は目に見えませんし、いまだに実態が解明されておらず、謎が多く残っています。しかしそれこそが、微生物研究のおもしろさだと私は感じています。培養条件をちょっと変えてやるだけで、我々の想像をはるかに超えた現象が起こることがあるからです。無限の可能性を秘めている微生物に、日々ワクワクさせられています。

 15年ほど前から、微生物が作ったセルロース膜を使って紙を作るようになりました。というのも、農学部の授業のなかで「微生物がセルロース膜を作る」という説明を必ずするのですが、何か身近に感じてもらえる形で学生に示すことができないかと考えていたからです。セルロースを合成する微生物を培地に入れて4日間ほど静置すれば、セルロース膜が生成されます。それを乾かして紙を作り、学生に触ってもらうことにしました。応用微生物学を研究している人であっても、実際に微生物紙を見たことがある人は、ほぼいません。ハイテク分野で、微生物紙をスピーカーの部品に使っている例はありますが、なかなか目にする機会がないんですよね。セルロースを合成する微生物は100年以上前に見つかっており、文献もたくさんあったので「きっと、こういう紙ができるだろう」という予測はついていました。しかし実際は、想像以上に引っ張りに強く、軽い紙ができあがったのです。私もとても驚きました。

図説(700).png

 学生に微生物の働きを身近に感じてもらうという課題はクリアしたものの、私のなかにはずっと「自分の研究を通して地域貢献がしたい」という想いがありました。そんなときにひらめいたのが、廃棄うどんの糖を微生物の培地に使うこと。香川県では、うどんの大量廃棄が問題となっているので、廃材からのリメイクで食品ロスの解消を目指せるのではと考えたのです。廃棄うどんを糖に変化させる作業は簡単なので、すぐに実行に移しました。

写真1.png
▲うどん一玉から、A4用紙10枚ほどの紙を作ることができます。

微生物たちの働きがサステナブルな社会を作る

 作業を進めるうちに、私はもうひとつのことをひらめきました。それは、軽量かつ水に濡れても破れないという微生物紙の特徴を「丸亀うちわ」に活用し、地域振興に繋げることです。丸亀市の産業観光課に相談に行ったところ、すぐに職人さんをご紹介いただき、製作にご協力いただけることになりました。さらには丸亀市の福祉施設の方から、「当施設でこの紙づくりができないか?」とご提案をいただき、施設のみなさんに微生物紙を作っていただくことが決まりました。福祉施設には仕事のバリエーションが少ないという課題があったそうで、思わぬ形で地域貢献することができて光栄でした。

 福祉施設という、これまで微生物を持ち込んだことのない場所で誰もが簡単に、均質なセルロース膜を作ることができる培養条件を見つけるのには苦労をしました。先ほどお話ししたように、微生物は少し条件が変わるだけで、できてくるものが変わるからです。最初は論文を参考にして、使う微生物の種類や培養条件を検討していましたが、なぜか上手くいきません。最終的には、これまでに培った我々の経験や知識を総動員して、期待以上の成果を出す条件を見つけ出すことができました。


写真2.png
▲丸亀市の新たな特産品となることが期待されます。

 ゆくゆくは企業とタッグを組み、セルロース膜を紙以外のさまざまな分野に活用したいと考えています。乾かしたときの強度を活かしてプラスチック製品の代替品にすることもできそうですし、乾かす前の吸い付くような密着性を活かして、コスメティック業界で活用することもできそうです。しかもセルロース膜は生分解性なので、土に戻すと枯葉と同じく微生物によって分解されます。つまり、環境問題の観点から見ても、大変に優れた素材なのです。今後はセルロース膜の認知度をさらに高め、予想外の利活用に繋げたいです。ただし、将来的に大量の微生物紙が必要になったとしても、福祉施設の在庫を優先的に使うという条件だけは絶対に譲れません。

<研究シーズ活用のご相談>
香川大学 産学連携?知的財産センター
〒760-8521 香川県高松市幸町1-1
TEL:087-832-1672(代) / FAX:087-832-1673

詳しい情報は、HPから確認できます
/faculty/centers/23894/